逆旅出版の刊行書籍が3作品となり、「出版社をしています」と名乗らせてもらうタイミングがかなり増えた。
その時によく「どんな本を作っているんですか?」と聞いてもらうのだけれど、これに対する返答がいまだに慣れない。
逆旅出版そのものは「旅人にとっての宿のように、人生の休憩場所や道しるべになる本を作る」としているけれど、会話の相手が求めているのは「絵本を作っています」とか「実用書がメインです」とかそういう返事だ。
これが難しい。
1冊1冊、著者も違うし、それぞれに想定している読者層がある。
結果として、難しい質問だなぁ……なんて思いながら「いろいろですかねぇ」なんて、お茶を濁してしまう。
コンセプトがあることに憧れはするけれど
「うちは〇〇という本を作っている出版社です!」と言いきる様子を見ると、かっこいいなぁとは思う。
説明もしやすくなるし、ものを世の中に打ち出すときの王道っぽくて憧れる。
メディア側も取り上げやすくて、使い勝手もよくなるんだろうな。
でも、逆旅出版に当てはめて考えると、そうやってコンセプトを今決めてしまうことが現実的じゃないなと思ってしまう。
そもそも正しいコンセプトがなぜ作れると思うのか
「出版社を始めた」というと、十中八九「もともと勤めていて独立されたんですか?」と聞かれる。
「いえ、まったくの未経験で」と答えると、ごく稀に「自分も未経験ですよ!」と返してもらうこともあるのだが、詳しく聞くと大体前職は書店員で、それは他業種から見るとバリバリの経験者だと思う。
そんな大手出版社と経験者だらけの小規模出版社ばかりの業界なのだ。
お仕事として成立するような正しいコンセプトなんて、どこかで誰かが先にやっている。
いい感じのコンセプトを見つけられたとしても
運よく、いい感じのコンセプトを見つけられたとしてもだ。
「〇〇な本を作っている出版社」と名乗る時に必要な冊数はどれくらいなのだろう……。
書籍を1冊、世の中に出そうと思ったらざっくり計算して150万円くらいは経費がかかる。3冊なら450万。10冊なら1500万円だ。
単純に経費の話だけでなく、例えば「恋愛エッセイ」と決めてしまったら、出したい冊数分の著者を探さなくてはいけない。1人に何冊も書いてもらうこともできなくはないけれど、基本的には10冊だすなら10人のエッセイスト。
そうやって経費や何やらすべてを捧げたコンセプトが、世の中に必要としてもらえるものなのかは後になってみたいとわからない。
何冊も出したあとに「やっぱり違った」となる可能性もゼロじゃない。
それなら「最初にコンセプトをがっつり決めて、3冊くらいだして、会社ごとバイアウトしよう」なんて考えの方が現実的に感じてしまう。かかる時間は1年くらいだろうし。
ただ逆旅出版に関してはバイアウトする気も、誰かに株式を発行する気も全くない。
しいていえば必要とされる、売れる本が作りたい
逆旅出版は、「一生ものの仕事にしよう」と思って30歳の時に始めた。
健康状態にもよるけれど、おそらくあと30年くらいは続けられると思う。そうなると、年間で4冊ほど世に出すとして、一生で120冊つくれる。
だからこそ、この経験も資金も何もない企業初期の状態で、ガチガチにコンセプトを固めてしまうより、とにかく売れる本が作りたいなと思った。
もちろん世の中には売れてなくて素晴らしいものもたくさんあるだろうけれど、売れているというのは一定数誰かの役に立っているということだから。
(読者だけではなく、売上がたった点で、原材料の業界や書店業界、運送業界などたくさんの人の役に立っている)
ちなみに、出版社が倒産すると、それまでその出版社が出した書籍たちは絶版になる。
つまりちゃんとマーケティングして、売上をたてれば、書籍たちの寿命を延ばせる。
100年とか500年とか、とうてい自分が生きてはいられないだろう未来でも読んでもらえる状態を作れたら……って考えるとワクワクする。ロマンだ!
私は幼いころ、本当に本を読んでばかりいた。
両親も共働きで友達もいなかったから、人と話すより読んでいる時間の方が長いくらい。もはや書籍に育てられたといっても過言ではない。
だからこそ、逆旅出版がいい本を作って、ちゃんと儲けて、しっかり書籍たちの寿命を守れることはすごく魅力に感じる。やっぱり必要とされる、売れる本が作りたい。
でもきっと対面で「どんな本を作っている出版社なんですか?」と聞かれたときに、「売れそうな本です!」なんて答えるのはあまり良くないんだろうなぁ……。
近い将来、逆旅出版の冠レーベルは作りたい
とはいえ、最初にも言った通りコンセプトがある状態に憧れてはいる。
逆旅出版の歩みとして「今じゃない」と思っているだけだ。
それもネガティブな感じではない。
個人で事業をやるメリットは、始めるタイミングも辞めるタイミングも自分で決められることだなと思う。
私が一生辞めないって言ったら終わらないのよ!
なので、30年続けて120冊くらいは世に出すという気持ちでいるからこそ、今はまだ経験が浅くて足りないところが多かったとしても「そりゃあそうだよね!」とむしろポジティブでいる。
どんどん周りに勉強させてもらって、近い将来、冠レーベルを作りたい。
「旅」でできたらとても嬉しいけど、どうかなぁ。
……そうやって長く続けるつもりだからこそ、この企業初期の段階で「逆旅出版で出したい」と言ってくれた著者さん達に感謝の気持ちが絶えない。
無名で、実績も何もない状態の時に「一緒にやろう」と言ってくれる人は本当に大切な人。
「どんな本を作っているんですか?」には上手く答えられないけど
自由に書いているから話があっちこっちに飛んでしまった。
とにかく主張としては、長期的にやっていく中で、時代にすごく受け入れてもらえるテーマに出会えたらいいなと思っている。それまでは売れることを一つの目標として、後世に残すべきだとワクワクできる1冊を丁寧に作っていくしかないと思っている。
全部とは言わないけれど、周りの出版社も最初はこういうのが多かったんじゃないかなぁ。
長く長く続けていくことで、○○文庫といえば○○社で、××新人賞といえば××社みたいな感じになっていったというか。
別に、出版社の中でレーベルを分けることもできるし、コンテスト開催しちゃうとかもあるしね。出版社を複数作ってもいい。たぶんまだまだ勉強できることがいっぱいあると思う。
なのでこれからのことを考えるとワクワクする!
今日も3冊目のイベントなのでがんばろう。
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